はじめまして、この度PRAP POINTSに入社しました荒川と申します。
全世界にコロナウイルスの感染者が広がる中、移動制限や都市封鎖の影響が食料貿易にも出始めています。世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)など3機関は4/11、「国際市場における食料不足が起きかねない」とする声明を出しました。シンガポールの食料自給率は10%を切っており、食料の多くを海外からの輸入に頼っているため、国際市場での食料不足はとても重要な問題です。
そこで、今回はシンガポールでの食品流通について、シンガポール政府の対策を交えながらみていきたいと思います。
先述の通り、シンガポールの食料自給率は10%を切っています。シンガポールの国土は東京23区ほどしかなく、そのほとんどが住宅やオフィス、工場で占められており、農地が限られているためです。それゆえ食料の多くを輸入に頼っているおり、他国での食料生産の減少や物流の寸断が起きると価格上昇や供給不足に直面することとなります。
コロナウイルスの広がりによる各国の輸出規制、買いだめに対する安定した物流確保は最重要課題となります。シンガポール政府は食品の供給は十分にあるとしながらも現在の状況が長期化すると食料供給が不安定になる可能性があるとして、兼ねてより取り組んできた対策に加え、追加の対策を講じ始めていま
す。
日本からの輸送が遅延しているため、タイミングによって通常は日本産の野菜がアジア産の野菜に替わっている。(シンガポール国内スーパー)
1.輸入元の分散
食料の供給源を多様化するため、政府は輸入元を分散させる対策を実施しており、2007年には160カ国でしたが、現在では170カ国に増えています。
これに関連し、2019年、シンガポールは2年連続で世界食料安全保障指数(GFSI)1位となりました。GFSIは「手頃な価格で入手できるか」「物理的に入手しやすい状況にあるか」「安全で栄養価の高い食品を入手できるか」の3項目で評価されますが、シンガポールに関しては食料輸入先の多様化も高評価の要因の1つに挙げられています。
実際に日常生活の中でも、スーパーに行くと、近隣アジア・オセアニアのみならず、日本や欧米各国の食品や調味料が数多く揃っていることを実感します。
出典https://www.nna.jp/news/show/1984795
2.30 by 30
2019年12月、政府は2030年までに食料自給率を30%に引き上げる「30 by 30」と銘打った目標を掲げました。これは食料の90%以上を輸入に頼っている現状を脱するため、食品ロス軽減と国内の農業を強化するための取り組みです。
マサゴス・ズルキフリ環境・水資源相は「食料の供給源を多様化しておくことが肝要。屋内栽培の野菜工場や隔離型洋上養殖施設に加え、植物由来の人工肉など代替タンパク質も活用していく必要がある。」と述べています。
またシンガポール農水畜産庁(AVA)は、農業のハイテク化を目指しており、総額6,300万シンガポールドル(約52億円)の「農業生産性向上ファンド」を立ち上げ、国内農家がテクノロジーを利用し、生産性を高めるための支援を開始しました。
AVAの支援によって屋内の植物工場内でLEDライト、エアコン、スマート灌漑システムなどを駆使し、ケール、いちご、トマトなどを生産するスタートアップも増えています。
今後も先端技術を活用した食料生産が進んでいくことと期待されています。
先端技術によって栽培されたケール
3. 30 by 30 express
シンガポールの環境・水資源省とシンガポール食品庁(SFA)は4月8日、30 by 30の一環として、食料生産を手掛ける地場企業に3,000万Sドル(約22億8,500万円)の資金を援助する新施策「30 by 30 express」を導入することを発表しました。これは新型コロナウイルスの感染拡大で世界の食料供給が不安定になる中、国内で食料を早急に、短期間で増産できるよう、地場企業を支援する取り組みです。
今後6か月~2年で食料増産する企業への資金を助成するほか、工業用地や空き地を農地に転用する取り組みも強化される予定です。
4.6カ国と提携し、物資の供給ルート
シンガポール貿易産業省(MTI)は3月25日、食料品や医薬品などの必需品の流通を維持するため、オーストラリア、カナダ、チリ、ニュージーランド、ミャンマー、ブルネイの6カ国と提携し、物資の供給ルートを確保したと発表しました。
国連食糧農業機関(FAO)はコロナウイルスの感染拡大の影響で「在庫はあっても、食料が届かない危機が起きる懸念がある」と指摘、し、各国の協調を呼び掛けていますが、MTIの広報官も空輸便激減と国境管理による陸路輸送にも混乱が生じていることを指摘しました。
一部の国では小麦などの輸出を制限しており、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)は3月末、「輸出規制は国際市場の食料不足や価格高騰を招き、低所得・食料不足の国に害を与える」と声明を出しています。
出典https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200423-00010000-jij_graph-pol
チャン・チュンシン貿易産業相はフェイスブックで、さらに多くの国の参加を呼び掛け、「世界貿易を脅かすような決断を下すのではなく、ウイルスと戦うために世界各国が結束してしなければならない。シンガポールはパートナーを結集して、貿易とサプライチェーンの流通を維持することを約束する」と強調しました。
5. 地域住民の共同菜園(コミュニティーガーデン)
シンガポールでは食品ロス削減と食料自給率の強化が急務となっていますが、これに関し、南洋理工大学S・ラジャラトナム国際問題研究大学院で食糧安全保障を研究するポール・テン教授は地域住民の共同菜園(コミュニティーガーデン)が世界的な食料供給問題の解決に一役買う可能性を主張しました。
テン教授は、30 by 30で掲げられているようなハイテク農業は導入に時間がかかる恐れがあるとし、コミュニティーガーデンを推進することで短期間に国産の野菜や果物の収穫量を増やせるかもしれないと指摘しています。
また、ストレーツ・タイムズ紙によると、2005年にはわずか1カ所だったコミュニティーガーデンは現在1500カ所にまで増えているそうです。国立公園局園芸・コミュニティーガーデン部門のウン・チョウケン・グループダイレクターによるとコミュニティーガーデンは農業許可を取得していないため、農作物を販売することはできず、通常は住民たちで分け合っていますが、最近は収穫された農作物を介護施設や社会福祉団体への寄付が行われているそうです。
以上のようにシンガポールでは安定した食料供給のために様々な対策が講じられています。しかし、国土全体に占める農地は依然として1%以下であり、食品分野は今後も成長が大きく期待できる分野ではないかと思います。
また、シンガポールは全人口約560万人に対して在留邦人数が3万6000人であり、比較的大きな邦人マーケットがあることに加え、訪日シンガポール人の増加に伴い日本産の食品に対するシンガポール国民の関心も年々高まっています。さらに夫婦共働き世帯が多く世帯収入が高いことで外食産業が発展しているため、日系飲食店も多く進出しており、そこで日本産の食材が使用される機会も増えてきています。
このようなことからもシンガポールにおける食品ビジネスにはまだまだ多くの可能性が残されているのではないでしょうか。
東南アジアでのマーケティング活動を検討される際にはお気軽に弊社窓口<contact@points-global.com>までお問合せください。
Eri
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- シンガポールにおける食品流通ーシンガポール政府の対策― - April 28, 2020